自衛隊の幹部、特に出世の早いAグループ幹部(キャリア組)になるためには現在大きく2つの道があります。
1つ目は高校卒業後、防衛大学校に入学して幹部自衛官への道をスタートする方法です。
2つ目は、一般大学へ入学し、国家公務員試験のひとつである一般幹部候補生試験に合格して、幹部自衛官になる方法です。
大学院卒も同様の試験を受けることになります。
防大卒と一般大卒は幹部候補生学校に入校したら、完全に平等な扱いを受けるというのが公式の見解です。
しかし、これは制度としては真実ですが、実際には区別や扱いの差を感じる部分はあるというのが正しいです。
「幹部になるなら防大と一般大どっちがいいの?」
「一般大卒って偉くなれないの?」
「院卒から幹部になって技術開発に携わりたい!」
この記事では、そんな疑問について自分なりの考えを書いていこうと思います。
最初に大事な結論を2つ言っておきましょう!
1 圧倒的に防大卒のほうが良い
2 院卒はオススメできない
それでは具体的にみていきましょう!
ちなみに私は一般大卒の幹部でした!
陸上自衛隊だったので、海・空についてはよく知りません。笑
幹部になるなら圧倒的に防大
幹部になりたいなら迷わず防衛大学校に行くことをオススメします。ただ、高校生で「絶対に自衛隊の幹部になりたい」って熱い気持ちのある人に限りますが。笑
防衛大学校は確かに厳しい場所だと思います。しかし、幹部自衛官として生きていくならここ以上の学歴は存在しません。
難関国立よりも早慶よりも防衛大学校なのです。
その理由をみていきましょう。
「たて」と「よこ」のつながり
最大の理由ですね!
4年間で防大の同期が手に入れていて、一般大卒の幹部にはないものです。
まず、「たて」のつながりが圧倒的です。4年間在学していれば、先輩で3期別、後輩で3期別の知り合いが出来ることになります。防大での先輩・後輩は一般大でのそれとは異なります。
同じ部屋で一緒に暮らし、指導され、指導した仲です。「その人がどんな人間なのか」ということを期別を越えて知っています。
そして、「よこ」のつながりも圧倒的です。4年間もの間、様々な厳しい訓練、辛い環境を共に過ごしてきた仲間です。基本的に集団行動です。朝起きてから、夜寝るまでの文字通り四六時中ずっと一緒にいる存在です。
そしてこの「たて」と「よこ」のつながりを強めているのが校友会という存在です。防大では、何かしらの校友会に所属しないといけません。
校友会ヒエラルキーとか言われたりしますが、大規模は校友会は人数もすごく多いです。ラグビー部なんて至る所に同じ校友会の人間が存在しています。
陸・海・空につながっている先輩・同期・後輩
そしてその強力な「たて」と「よこ」のつながりが陸・海・空の全自衛隊に及んでいます。だってそうですよね。卒業したら、ほとんどが自衛隊の幹部になるんですから。
この陸・海・空の全てに多くの知り合いがいるというのは、一般大卒の幹部ではまずありえません。恐らく、ずっと勤務してもこれほど多くの知り合いは出来ないのではないでしょうか?
「統合運用」が重要なキーワードとなっている現在、このつながりは重要です。
やっぱり知り合いが多い方が調整がしやすいです。
防大卒同士で通じ合う場面は多々ある
想像してみてください。もし、自分と同じ出身大学の人とあったら「同じ大学」という共通点で話が弾みますし、多少親近感が沸くと思います。それが、自衛隊では「防大卒」という共通点から様々な話ができます。
お互いに初対面でも、共通の知り合いくらいなら簡単に見つかるのです。
一般大卒が持つ「たて」と「よこ」のつながり
一般大卒にもつながりはあるような...
いろんな業界・官公庁にサークルの先輩や同期がいるし...
その通りです!一般大卒にも同じ大学のつながり、それも一流大学の卒業生ならいろんな業界に総合職の知り合いがいると思います。
しかしながら、自衛隊においてこのつながりにあまり意味はないです。
なぜなら、自衛隊という組織は非常に閉鎖的だからです。
何か新しい技術や革新的なサービスがあったとしても、それを導入するには長い時間と膨大な数の承認が必要です。自衛隊が認めているものやサービスしか業務において活用することはできません。
このような環境の中で、いろんな業界・業種に知り合いがいてもそれを活かせる機会はほぼないでしょう。
一般大卒の人脈が活きることがあるとすれば、それは官公庁間でやりとりをするようになった時ですかね。
でもそれは、幹部になって10年以上経ってからのことです。
幹部候補生学校での圧倒的な差
現在の幹部候補生学校では、防大卒も一般大卒も全く同じ扱いで教育を受けます。
ですから、入校当初~夏季休暇くらいまでは防大卒と一般大卒ではかなり 自衛官としての素養にかなり差があります。
しかし、成績をつける時にその事は一切考慮されません。防大卒と一般大卒は平等に扱われるからです。
また、重要な役職も防大卒に優先的にまわってきます。というより、「一般大卒はまだ出来ないから防大卒にやらせよう」って感じです。実際、一般大卒の人にやらせても確かに防大卒と同じようには出来ないと思います。
当たり前ですが、目立つ役職や重要な役職をしているほうが、失敗しても評価されます。どうしても防大卒と評価の差はついてしまうのです。
そして、その差を卒業までに取り返すのはなかなか大変です。
もちろん、卒業時には「できる一般大卒」のほうが「できない防大卒」よりも優秀な成績で卒業します!
その点については安心してください。笑
私が入校している時にはじめて防大卒と一緒になったエピソードはこちらの記事にまとめてあります!
幹部候補生学校での成績は出世に影響する?
幹部候補生学校での成績はずっと残るものです。海上自衛隊では幹部候補生学校の成績が全てみたいですが、陸上自衛隊ではBOC、AOCの成績、そしてCGS(指揮幕僚課程)にどれだけ早く合格できるかが重要です。
しかし、幹部候補生学校の成績が幹部自衛官人生に全く影響を与えていないということはないと思います。
指揮幕僚課程(CGS)で一般大卒は不利?
指揮幕僚課程(CGS)は高級幹部になるための登竜門です。AOC修了後から受験することができ、 最大で4回まで 受けることが出来ます。
この試験において一般大卒は不利なのかということですが、公式としては平等です。しかし、1選抜や2選抜での一般大卒の合格者が著しく少ないもの事実です。
これは単純にトップ層で努力できる防大卒が多かっただけかもしれませんし、一般大卒でそもそもCGSを真剣に目指していない幹部が多いだけかもしれません。
少なくとも1次の筆記試験においては差はないようです。2次の口述試験・人物評価では詳細が明らかにされないため理由を調べることは出来ません。
結論として、実際に合格している一般大卒の幹部は多くいます。しかし、1・2選抜で合格している一般大卒の幹部は少ないです。
一般大卒が不利とまでは言えなさそうですね。
一般大卒から幹部になるメリット
一般大卒から幹部になるメリットですが...
特に何もありません。笑
「一般大で専門知識を学んだり、多様な経験や価値観を持った人材を幹部候補生として採用することで幹部の多様化を図る」ことが一般大卒の幹部を採用する目的らしいですね。
はっきり言うと、 自衛隊の多くの職域・役職において大学で学んだ専門知識や、多様な価値観が活かせることはかなり少ないです。
「理想の幹部像」や「あるべき部隊の姿」による画一的な価値観、教範事項を絶対視した訓練・指揮幕僚活動があるだけです。
自衛隊の価値観や考えを抵抗せずに受け入れることが求められるのです。
「一般大卒の幹部の強み」って自衛隊においては本当に存在しないと思いますね。
ちょっと嫌なことばかり書いてますね。笑
でも3年8ヶ月勤務してこう感じました。
金銭的にも防大
幹部自衛官になる上で一般大卒にメリットがないなら高い学費を払って大学に行く必要はありませんよね。
防大にいきましょう。奨学金に悩む必要もありません。笑
現在は任官拒否しても学費返納義務はないみたいですし...ただ今後どうなるのかが心配ですね。
院卒はオススメできない
自衛隊の幹部になるには大学院を卒業してから幹部になることもできます。
しかし、私はオススメしません。
理由をいくつか述べていきますが、ここでは理系院卒を想定します。
「自衛隊関係の研究・開発に携わりたい」
「将来的にはTAC(幹部高級技術過程)にって高級技術幹部になりたい」
こんな感じで考えている方です。
研究・開発に携わるまでが長すぎる
研究・開発の部署に配属されるのは幹部になって早くても6~7年後です。
TACを受験できるのも7年後なので、それまでは研究以外の業務をしなければなりません。
技術者として活躍する目的で入隊したのに、7年間も他の業務をするのは時間がもったいないです。そして、その業務は運用訓練幹部をはじめ大変な業務です。
さらにせっかく研究・開発の部署に配属されても、ずっとそこで働くことは出来ずに異動があります。
要するに、技術者として活躍できる時間が短いのです。
やりたい研究・開発はできないかも...
自衛隊では自分が望む研究や開発ができるとは限りません。もともと、民間企業のように「その分野の開発者」として採用したわけではないからです。
理系院卒ならば恐らく「武器科」への配属になることが多いと思いますが、武器・装備品といって様々です。
また、私のようにソフトウェア関係の開発がしたいと思っても、そのような環境は自衛隊にはありません。開発の主役は民間企業になります。
自分の研究したい分野がある人こそ、自衛隊ではなく民間企業や研究機関への就職をオススメします。
いきなり2等陸尉からスタートする
院卒から幹部になった場合、幹部候補生学校卒業後、いきなり2等陸尉からはじまります。この階級だと、ほとんどが各部隊の運用訓練幹部クラスのはずです。
どんなに専門分野に関する知識があっても、幹部としては初級幹部です。なんの経験もないまま、2等陸尉の仕事をこなすのは大変です。
上からの重圧、パワハラ、下からの突き上げによってそのまま潰れてしまうリスクも結構高いです。
いきなり2等陸尉からスタートするのは、かなりのプレッシャーになるはずです。
そのような苦労やリスクを負ってまで、「どうしても自衛隊で研究・開発したいことがあるのか」はよく検討することをオススメします。
こんな理由で私の知り合いの院卒3人は退職していきましたね。
最後に
幹部自衛官として生きていくなら圧倒的に防大です。出世を考えてもそうです。この事実は変わりません。
でも、ちょっと視点を変えて一般大卒のほうが良い点を紹介しましょう。
それはキャンパスライフを4年間楽しめることです。
防大のように管理された4年間を過ごす必要はありません。自分の好きなように生活し、勉強し、恋愛することが出来ます。就職して分かりますが、2か月近く休める期間は大学の長期休暇間くらいです。
それは、上手く使えば非常に有意義な時間になります。いろんなことを学べます。
就活の時期になって、もし「一般幹部候補生試験を受けようかな」って考えたら受験すればいいと思います。
一般大卒の幹部でも優秀な人はたくさんいます。決して追いつけない程の差ではないです。
将官クラス(陸将・陸将補)は難しくても、 1等陸佐なら十分になれます。
メリットとデメリット、リスクとリターン、いろいろな事を考えてベストな選択をしてください!
もし、この記事が参考になったらうれしいです!
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